アートがあるから 〜東京←→NY 母と娘のアート通信〜

東京に住む母エリンギと、ニューヨークに住む娘シメジのアート文通

はじめに。 

はじめに/娘より

 

このブログは、ニューヨークに単身移り住んで20年ほど経つ私と、産まれてからずっと東京で暮らす母が、それぞれの地から、アートにまつわるあれこれを、互いに宛てた手紙形式で綴っていくものです。専門的なアートアーティクルでは決してなく、幅広い分野のアートについて、独自の視点で考えたことや感じたことなど、つらつら書いていく予定です。


「母と娘の」ブログですので、まずは私と母の関係について軽く紹介したいと思います。



私の母は東京の下町で生まれ育ち、今もその生家に私の祖母(母方)、父、兄と共に住んでいます。祖母と祖父が若い頃に苦労して作り上げたこの家で私も生まれ育ちました。家の書斎にある美術書に囲まれながら、当たり前のようにアートの世界へと引き込まれていきました。そして21歳の時ニューヨークに渡り、気がつけば日本に住んでいた時間と、ニューヨークに渡ってからの時間が同じくらいになっています。


私がニューヨークに渡った理由は、一言で言えば現代アートに魅せられたからです。まだ私が美術短大に通っていた頃の東京は、現代アートに関する情報も、触れることのできる場所も圧倒的に少なく、「美術手帖に掲載されるアーティクルや、当時のワタリウム美術館原美術館などで必死に現代アートというものを知ろうとしていました。通っていた美術短大でさえ、アカデミックな授業内容がほとんどでした。


そんな中で、卒業間近に旅行で訪れたニューヨークには、現代アートに触れることのできる場所が当たり前のようにそこかしこに存在していて、またそこに住む人々の自由さ、街自体の熱量が、その時の私の目にはとにかく魅力的に映ったのでした。
そして若さの勢いで、卒業してからバイトをしてお金を貯め、ビザ諸々の手続きを進め、一年後にはニューヨークへと旅立ったのです。


母は、最後まで私の渡米に賛成はしていませんでしたが、旅立つときには私の情熱と努力を認め、快く送り出してくれたのでした。旅立つ直前に、空港で渡された手紙を飛行機の中で読み、こっそり泣いたことは今も忘れられません。


そして私はニューヨークで現代アートの仕事にありつくことができ、生活も落ち着いてきた頃に、なぜか母も現代アートに目覚めたのです。母は子育ての期間、アートから距離が空いていましたが、もともとデザイナーでありイラストレーターでもあったので、アート全般に関して詳しい方なのです。が、現代アートに関してはどこか無関心なところがありました。それが一転、その頃からアート検定なるものを受けてアートナビゲーターとなり、現代美術館などで作品ツアーを行ったりと、母もすっかり現代アート漬けの生活になっていったのです。

 


そんなふうにして、いつしか「アート」は、私と母の共通の何かになりました。

(いや、もしかしたらいつでも、私たちの間にはアートがあったのかもしれない。)

 


なぜ、あの頃急に、母は再びアートの世界の扉を開いたのだろう。

なぜ、母はアートに何かを求めたのだろう。

なぜ、私たちはアートを求め続けるのだろう。

 


若いうちから遠くへ来てしまったこともあってか、私と母の間には、色々と未解決な感情もあったように思うのです。これはだから、不器用だった私と母の、アートを通しての今更ながらの心の交流、何かのキャッチアップのようにも、思えるのです。


これから交代で、ゆるくアートにまつわるあれこれを書いていく予定です。アート作品を通して、母の心の軸がどのように動き何を感じ何を考えるのか、私も読むのが楽しみです。それではどうぞよろしくお願いします。

 
 
はじめに/母より
さて
子どもの頃のことはあまり憶えていないし、思い出したりもしないほうかもしれません。
それでも昭和30年代のわが家には「世界の名画」全集のようなものがあって、気にいった絵を本からはがして飾ってもらった記憶があります。
住んでいるのが上野に出かけやすい所だということもあって美術館や博物館に親しんで育ちました。
そんな頃から今にいたるまで私とアートの距離は近づいたり離れたり・・・・・
 
私はアカデミックな美術教育を受けてはいませんが、アートに関わるボランティア活動などを続けるなかで、作品はもちろんですがアートとその時代、そしてそれを受け取る人(鑑賞者)との関係にとても関心を持つようになりました。
 
今、以前のように気軽に美術館へ行くことも難しくなっていますが、これはある意味そんなことを考えるのに適した時間かもしれません。
そこへ娘から「アートをキーワードにブログを始めてみない?」の提案が。
 
私もこう書きましょう。
 
なぜ、娘はアートの世界の扉を開いたのだろう。
なぜ、娘はアートに何かを求めたのだろう。
なぜ、娘はアートを求め続けるのだろう。
 
どんなふうに展開していくでしょうか? 楽しみです。
どうぞよろしくお願いします。